旅先で感傷的になり、変に哲学的になるのは、旅人の通過儀礼かもしれない。特に一人で旅をしていると、自分という存在の先天的な孤独を、改めて噛み知れさせられる。日常生活やその中の人間関係というパディングが取り払われ、剥き出しになった自分に戻るからだ。そんな時、すべてのものが悲観的に見えてくることがよくある。周りにいる人間の目が冷たく映り、旅そのものが無意味な行動に感じられ、今までの人生が失敗や妥協の繰り返しのように思えてくる。ぼくはまさに、そんな状態の中にいた。
対処方法は分かっていた。淋しさを自分の中に受け入れるのだ。逃げるまでもなく、反応するのでもなく、ただじっと見つめていることだ。そうしていると、そのうち必ず、痛みは和らいでいく。淋しさが、孤独という別の生きものに変わっていくのだ。そしてある日、その孤独を道連れに、旅を続けていこうという意欲が湧いてくる。
『地図のない国から』(ロバート・ハリス)より