NO GUN, NO LIFE.

始まりは大砲のようなものから火縄銃のような長いライフルになり、拳銃はそこから発展していったのだろうと思った。共通の目的は当然、生物を殺すために決まっていた。ナイフや刀なども同じ目的をもつが、根本的に違うのはそれに含まれるリスクだった。(中略)が、拳銃にはそれはなかった。(中略)殺した側の人間には絶対的とはいわないまでも、ナイフや刀などに比べればかなりの安全が保証されていた。そして、その手には人を殺したという感触、肉を切る、骨を砕くような直接的な感触は一切ないだろうと思われた。(中略)拳銃にあるのは弾丸が発射される時の衝撃の感触のみであり、それに相手の肉や骨との接点はなかった。いかに手軽に相手を殺すことができるかどうか、その人間の願望をこの銀色は体現しているように思えた。(中略)これは殺人を身近にし、そして、殺人を行う、その行為者自らが殺人を傍観することを可能にするものであるような気がした。

いつでも拳銃を撃つことができるという状態は、日々に比例するようにその可能性を刺激し、現実の事柄として私に迫るようになった。拳銃を見、触れる度に、私の頭のには自分が拳銃を撃つ場面が具体的に想起され、それは私の想像の枠内という狭い囲いから抜け出るように、実感という肉体的な感触へと結びつきたがった。私はいつか拳銃を撃つ、それは間違いのないことだと、その中で思うようになった。(中略)その確信は遠かった未来を近づけ、まるでそれ自体が人格を有したように、第一の発射を迫るようになった。その要求は次第に、私の気をおかしくさせる程強くなり、私を捉え、放さなかった。(中略)弾丸の発射は私の意思の選択から、いつの間にか、私の予想を超えて決定へと変わり始めたような、そんな気がした。

私はもう一度戻ることを思った。拳銃を発見した時の状態に、私と拳銃がある意味で、よくわからないが、対等だった状態に、戻ることを思った。しかし、それはやはり難しかった。拳銃はもう私の一部であり、大袈裟に言えば、私の理性の中に入り込んでいた。(中略)もはや撃たないことを選択するには、以前の私に戻るということを選択しなければならないように思えた。それは、拳銃を所持していない、私という存在のみの、私自身に戻ることだった。それは難しいことであると同時に、私にとって非常に嫌なことだった。今の私には、拳銃がない毎日を考えることはできなかった。私は拳銃によってできた自分の生活の流れに、限りない喜びを感じたし、その過程を進んでいくことは、同時に私の人生を進むことであるような気がした。          

以上、すべて『銃』(中村文則)より
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by Worthy42 | 2007-09-11 22:27 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)
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