天使のナイフ

中学生の少年たちに妻を殺害された男が
数年後に起きた実行犯の殺人事件に巻き込まれつつ、
少年犯罪とそれを取り締まる法律の無常さに苛まされながらも
事件の真相に迫っていく傑作ミステリー。
第51回江戸川乱歩賞受賞作。

なによりもまず、少年犯罪を裁くべき少年法(後に改正)の
無常なまでの不備・矛盾に改めて愕然とさせられた。

年齢ゆえに刑務所ではなく施設に送られ、罪を問われないという事実に加え、
施設での更正(矯正)具合を被害者側は何も確認できないという不条理さに
我が身のごとく真剣に考えさせられた。

作中ではこうした実情に沿ったストーリーが展開されつつ、
著者の考えが主人公の心情として吐露されているのが窺えて、
そういった姿勢が実直で非常に好感が持てた。

弁護士や施設の人間は、
加害者の少年少女の精神の可塑性(というらしい)を信じて
親身になって更正に励むことに希望を賭けているが、
被害者の遺族と向かい合って対峙することなくなぜ更正したといえるのか、
という主人公(著者)の意見には微塵の疑問もない。

それと同時に、精神の可塑性を信じるということは
精神の未知なる深さを認識せざるをえないということでもあると私は思う。

つまり、少年時代に残忍な殺人を犯してしまったけれども
適切な施設で適切な指導を受け適切な生活を送れば
いかようにも更正は可能であるという事実を、
誰が確かめることができるのだろうかという究極的な疑問にも直面する。

犯行中に心を覆った悪魔的な闇がもう二度と彼を陥れないと、
誰が確約して世間という荒野に放すことができるのか。

施設では犯した罪の大きさを知り反省の態度を見せている反面、
内心では早く人を殺したくてしょうがないという衝動を隠しているということを
誰が見抜き、100%再犯の危険なしという判断を下せるのだろうか。

個人的には精神の自由な変容性を強く信じるがゆえに、
他人の”鑑定しうる領域”に大きな不安と不確実性を抱かずにはいられない。

それゆえ、精神鑑定などというものを私はまったく信用していない。
つまるところ、少年法に対してもそういう立場を私はとる。

・・・などなど様々なことを考えさせられる(これは良著の条件だと思う)、
江戸川乱歩賞受賞作にしてはプロットもよく練られた、完成度の高い傑作。

天使のナイフ
薬丸 岳 / / 講談社

評価:AA
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by Worthy42 | 2007-09-17 23:24 | 一冊入魂(読書記録)
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