死の記憶

35年前の少年時代に母親と兄姉を父親に殺害された過去を持つ男が、
女性ジャーナリストの求めに応じて当時の記憶の糸を手繰り寄せていくうちに
事件の背後に隠れた事実を思い出し、家庭崩壊の原因に迫っていくというストーリー。

全編に渡って漂う陰惨で悲劇的な色合いには、正直、閉口したし、
主人公の男が現在の家庭環境をないがしろにしてまで
事件の原因となった家族の関係を再度炙り出し、真実を追い求めようとする姿は
ある意味、正気の沙汰とは思えない。

過程できたす精神の危うい変容には同情を超えて哀れみの念を禁じえなかったし、
真相に辿り着いても残酷な家族史が書き換えられるわけでもなかった。

それでも犠牲の果てに見出した新しい世界に
一筋のかすかな希望が現れたような気がしないでもない。

「広大な静寂を透かし見ると、はるか彼方の闇のなかに一艘の船が見えた。私には、その船が手探りしながら、闇に閉ざされた故郷へと向かっているように思えた。」

という物語の最後の一文に、
私は逆説的だがわずかな灯りを見て取った。

絶望にまみれた救いようのない世界で、
男は少なくとも”故郷”を取り戻したのだから。

代表作『緋色の記憶』も読んでみたいと思わせる力作。

死の記憶 (文春文庫)
トマス・H. クック / / 文藝春秋
ISBN : 4167254425
評価:AA-
(装丁が不気味なほどに怖い)
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by Worthy42 | 2007-09-26 20:23 | 一冊入魂(読書記録)
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