好奇心の赴くままに

ランチの後、タリーズで佐藤亜紀の『天使』を読んでいると、
いつの間にか沢木耕太郎講演会の開場時間に。
a0096546_2244445.jpg

いそいそと自転車を漕いで御堂筋を北に向かう。
a0096546_22435491.jpg

会場入りした私の1メートル後ろから、たまたま沢木耕太郎本人が入ってきた。

憧れな人であるだけに「あ、ナマ沢木だ」、なんてミーハーな思いが頭を過ぎるが、
それ以上に想像以上の若さに驚く。還暦のはずだが40代に見える。

挨拶の後の第一声は、「今さ、そこでさ、」。
のっけから思いもよらぬ親しげな話し方に意外な印象を受けて講演会はスタート。
声はか細く軽やかだが、話しぶりも軽妙で若々しい。

全体としては、マカオで「博打(バカラ)」に打ち込んだ話と
作家、特に色川武大との盛んな交流(井上陽水含む)がメインだったが、
考えさせられたのは色川に言われたという逸話。

「色川の9勝6敗の理論」だとかなんとか言うらしいけれど、
「大相撲で幕内下位の力士が15戦全勝してしまって、
小結になった翌場所で大きく負け越してしまうのはよくない。
15戦全勝するためにはスタイルを崩さなければならないからだ。
大事なのはスタイルだ。スタイルを保てば9勝6敗でいい」とか、

「早く成功するに越したことはないけれど、
初打席で初ヒットを打ってもそのあと3打席凡打でも2割5分はある。
だけど、凡打を恐れて、以降、打席に立たないのはよくない。
勝ち続けるのではなく、負けを引き入れるようにするのだよ」という逸話。

さらに、とても印象的だったのは、
最後の方で自らについて語ったことば。

「好奇心の赴くままに38年間走ってきて後悔はしていないけれど、
色川さんが亡くなった60歳と同じ年になって、
初めてそれを遮断する時期が来たんじゃないか」という発言には、
寄る年波に対する不安が感じ取れたし、
色川について書こうという気持ちがあると述べる一方で、
「もう他人について書くのは無理なんじゃないかなという思いがあって」という話は
個人的にはもっと衝撃的だった。

未だに色川について書けるかどうかは未定な上、
今はアメリカに半年か1年か滞在しようかどうか迷っているらしく、
それも含めて「分岐点」と話していた。

穿った見方だが、今回の「好奇心の魔」というタイトルの「魔」には、
「迷い」の「ま」でもあるのではないかとさえ思った。

だが、そんなことを(さらに母の死につていも)拍子抜けするほどに
意外なほど人懐っこい柔和な明るい表情で語るところに
この人が幾度の過酷な旅で培ってきた楽観姓が見て取れなくもなかったし、
外見の若々しさも旅の連続で放たれた精神の自由にあるんだろうなとぼんやり考えた。


私も旅を重ねたい、
好奇心の赴くまま生きたい、
30年後に同じように若々しくありたい。

そう願いつつ、さっそく色川武大の『怪しい来客簿』と
話に出た山口瞳の『礼儀作法入門』を購入。
[PR]
by Worthy42 | 2008-04-13 00:42 | 情熱と怠惰の断片(日記的)
<< 今週の読了帳(04・07~04... Book, Buch, ブック >>