スウェーデン発の巨編ミステリ『ミレニアム1(上・下)』で始まった今年の読書生活。
多忙を理由に自ら胸に言い聞かせて夏場は読まない時期が続いたけれど、 結果として読んだ本は全部で61冊(フィクション49冊、ノンフィクション12冊)。 通常なら国内/海外フィクション・ノンフィクションに分けてベスト本を選定していくのだが、 今年は去年より20冊ほど読了した本が減ったので、国内と海外のフィクションはまとめてご紹介。 もちろん、ジャンルはすべてごちゃ混ぜのごった煮。 よほど惹かれた作品以外を除けば新刊は購入しないタチので、 毎年、師走に書店の棚を賑わすベスト本特集雑誌よりは時間の流れがちと緩やかなのでご容赦を。 さらに言えば、今月中に読了予定だった本に取り掛かれなかったので、 それらについては、残念ながらまた来年のこの時期にまとめるものとする。 さて、順位については昨年と比べて大いに迷った。 国内と海外を一緒くたにしたので、良作、怪作、傑作揃い(特に海外モノ)のなかでも、 「あれも!これも!」という内なる叫びを収拾して泣く泣く選外にした作品もあったし、 逆に、去年の『百年の孤独』、『ゴールデンスランバー』、『深海のYrr』、『チャイルド44』といった 瞬時に上から順位付けができるような(私にとっての)大傑作がなかったので、 ベスト10の選定も、その順位付けも、眺めるたびに変えたほうが良いのではと思い出す始末。 順不同ということでご覧頂ければ幸いです。 ①『新世界より(上・下)』(貴志祐介) ②『フラグメント 超進化生物の島』(ウォーレン・フェイ) ③『ダイナー』(平山夢明) ④『時間封鎖(上・下)』(ロバート・チャールズ=ウィルスン) ⑤『犬の力(上・下)』(ドン・ウィンズロウ) ⑥『ダブル・ジョーカー』(柳広司) ⑦ 馳星周(『煉獄の使徒』、『9.11倶楽部』、『やつらを高くつるせ』) ⑧『告白』(湊かなえ) ⑨『虐殺器官』(伊藤計劃) ⑩ 京極夏彦(『姑獲鳥の夏』、『魍魎の匣』、『狂骨の夢』) 次点:『残影』(マイケル・マーシャル)、『ミノタウロス』(佐藤亜紀) ちなみに、『ミレニアム』シリーズは、1~3巻まで全部読んでから評価する予定なので、 たぶん、来年のランクインになると思う。 ①は、最後のオチが「あっ」と驚かせる出色の出来。前半の冗長さを吹き飛ばす。 人間の底知れぬ野蛮さ、傲慢さ、そして罪深さがとてもよく描かれていて、 思わず自問自答をせずにはいられない。SFながら読者を選ばない傑作。 ②も同じくSFながら、こちらはクリーチャーもの。 映画になれば、B級モンスター・パニックに該当するので、私なら劇場に初日に見に行く。 同じ地球上で全く異なる進化の過程を進んだ生物がいたとしたら?という興味をそそられる テーマ設定の勝利とも言えるのだが、創造性溢れる生物の図解も見て楽しい。 一昨日突然衝動買いした一冊が、グロさ満載の長編ノワール③。 携帯サイトで募集していた仕事に応募してヤクザに拉致された主人公は、 命からがらとあるダイナー(定食屋)のウェイトレスとして働くことに。 しかし、そのダイナーの顧客は殺し屋たちだった…。 本谷有希子の帯の文句がまさに言いえて妙。 「平山さんの人として間違っているところが好きです」 そう、こんなエグイ描写を嬉々として書けるなんて間違っている。 間違いなく、読者を選ぶ。 2000年代最高のSFと言われるのが、④の『時間封鎖』。 地球が突如巨大な特殊幕に覆われて、地球の時間が宇宙の一億分の一になるという設定が絶妙で、 それを機に世界中で続発する人間の醜い争いが非常にリアル。 ①と②にも共通するのだが、SF的な設定ながら現在の人類の在り方からすれば、 起こりえると予測される展開が非常に現実的で身につまされる。 傑作映画『トラフィック』を思い起こさせるのが、30年にわたる北中米の麻薬戦争を描いた⑤。 今年の「このミステリーがすごい 2010」海外版1位に輝いた傑作。 作中、非業の死を遂げる登場人物の数のなんと多いことか。 老若男女、麻薬業者、政府関係者、警察関係者、宗教関係者、そんな区別なく須らく屠られる。 次第に悪も善も曖昧なものになり、正義を司る者さえ清濁併せ呑む状況に身を落とさねばならない。 そんななかで拠るべきものは…というありがちなテーマながら非常に読ませる。 昨年ミステリ市場を席巻した『ジョーカーゲーム』の続編短編集が⑥。 前述「このミス~ 2010」で国内部門2位に輝いたスタイリッシュなスパイ短編作。 爽快な読後感ながら、前作よりもダンディズム色が増した感あり。 異端のスパイ組織に属するスパイ達の人間味も垣間見えて、第3弾も読みたくなった。 ⑦の日本が誇るノワールの旗手、馳星周は三作とも優れた作品だったので、作者名で。 『煉獄の使徒』はオウム真理教の内部競争と警察・政治家との癒着をモチーフにした渾身の一作、 『9.11倶楽部』は救命士が主人公の(馳にしては)ヒューマンノワール系。 『やつらを高く吊るせ』は政経界の大物のスクープを漁る出歯亀男が主人公のハチャメチャもの。 ノワール好きであれば、どれも三者三様の妙味で堪能できる。 昨年のミステリー界を席巻したのが湊かなえのデビュー作⑧。 勤務先の学校で娘を失った教師の冷酷な復讐劇といった趣で後味は悪いが、 教師をはじめ、登場人物の心理や主張にはそれなり筋道が立っていて説得力がある。 ただ、「教師がこの手段に訴えては…」という思いは消えない。 もちろん、そういう読後感へと誘うよう綿密に計算されたものだとは思うが、 もっとも忌むべき避けるべき復讐の方法ではなかったか。そういう意味でも後味の悪さは天下一品。 ⑨は今年若くして逝去した日本SF界の新星、伊藤計劃の世紀末軍事SF。 気に入った理由は、主人公の思索に現実味があって妙に哲学的なところ。 どれだけ科学技術が発展しても人間の内に秘めた想いは科学ほどの進展を遂げない。 そんな当たり前のことを思索的に書き上げたものだから、 読み手もいつもよりいっそう考えさせられる。 食わず嫌いだった京極夏彦が⑩にランクイン。 いやはや、なんというか、ほんとにもう、螺旋階段をぐるぐる回るうちに、 昇っているのか、降りているのか、分からなくなる、そんな騙し絵中の登場人物になったかのよう。 読み出したら癖になると言う謂れが、身に染みて分かった。 とにもかくにも、2009年最大の発見と声を大にして言える作家の一人。
by Worthy42
| 2009-12-31 13:32
| 一冊入魂(読書記録)
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