カテゴリ:一冊入魂(読書記録)( 148 )

今週の読了帳(03・15~03・21)

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元々は膨大な翻訳のために空けていたのだが、若干スケジュールが楽になったので、
カフェに籠って仕事と課題と読書の繰り返しの連休。
今日は英検の勉強や文法を見直すために文法書にも目を通さねば。


先週、注目の1冊に挙げた『煙の樹』の原書"Tree of Smoke" を洋書セールで発見。
値段が翻訳版の3分の1だったので迷わず購入。
ちらりと読み始めたが、冒頭の一文が何やらその後の展開を期待させる。

"Last Night at 3:00 a.m. President Kennedy had been killed."

ほんとうは、David Halberstam の "The Coldest Winter" を探していたのだが、
それより、ずーと停滞している Cormac McCarthy の"The Road"を読まなければ。


<今週の読了本>
・『包帯クラブ』(天童新太)
評価:☆☆☆

とある町に住む少年少女たちは、傷ついた自分たちのために、
悲しい思い出の場所に行って傷口を塞ぐように白い包帯を巻くことにした。
その動きはインターネットを介して広がり、地元の人からも依頼が舞い込むようになり・・・


来週参加予定の読書会のテーマ本にして、『悼む人』の著者が、
「どんな傷も公平に扱う点で『悼む人』の姉妹編です」と帯に記した一冊。

人間の心がいかに繊細なものなのかということに加えて、
その繊細さゆえに、完璧に傷を治してくれることよりも、むしろ、
自分が傷ついたことを誰かが知ってくれさえすれば、
それで救われることもあるのだな、ということを改めて教えてくれる。

悲しみの源泉となる場所に包帯を巻くことで
心に傷を持った人すべてが辛い思いから解放されるわけではもちろんないが、
万人が抱く様々な心の痛みに対してどう共感して、それを伝えていくのか、
という普遍的なテーマに一石を投じる、淡い再生の物語。


・『カタコンベの復讐者』(P.J.ランベール)
評価:☆☆☆☆

パリのカタコンベで見つかった男女の首なし白骨死体。
女性警部アメリーと敏腕ジャーナリストダヴィドは協力して犯人像に迫るうちに、
数年前にフランス中で物議をかもした、あの事件の容疑者の影がちらつく・・・。


たまに思い出すかのようにハマってしまうハヤカワ・ポケット・ミステリ。
よくよく考えれば私的ベスト10に入るような傑作にはあまり出会わないのだが、
このホンヤクホンヤクした描写世界の展開がクセになる。

で、なんというか、復讐が絡んだ複数の猟奇連続殺人がテーマで、
性犯罪の前科者のリストがネットで公開され、該当者が一般市民に暴行されたり、
婦女暴行殺人犯が事件当時に心神喪失と不当に判断されるたりするなど、
現実的で議論を巻き起こしかねない、非常に重大な内容にもかかわらず、
アメリーとダヴィドの恋愛もあって、展開される物語は、とこどなく甘~い。

血と死が支配している空間で、シャンパンの香りが漂ってきそうな気だるい甘美さ。
この辺がフランスぽい優雅な洒脱さ、か。


・『Top of The World』(Peter May)
評価:☆☆☆☆☆

2007-08シーズンを制したボストン・セルティックスの1年を追ったノンフィクション。
K.ガーネット、R.アレンの加入により一躍シンデレラチームとして脚光を浴びた
かつての名門チームの奮闘ぶりが、主要選手に焦点を当てて時系列に綴られている。

230ページ強の作品ながら予想以上に早く読み終えたのは、
四半世紀NBAを見続けてきた故に蓄積された知識が貢献してくれたのは勿論あるが
それ以上に英語が流れるようにきれいだったから。

日頃、難解なテーマの微妙に崩れた(おかしな)英語を読んでいると、
文法が一目瞭然で(新聞的)で、すっきりした論理的で簡潔な文章に触れるとホッとする。
"The Road" が遅々として進まないのは、技巧に凝った表現が多い文章は
辞書もなく一読しただけでは読み進めにくいからなのだと改めて思った。

所々あった意味をつかめない単語は読み飛ばしてしまったので、
今後はそういった単語を精査に調べていかなければ。

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邦題『煙の樹』。600強ページにもなるこの分厚さ。じっくりやるとします。

<ただいま読書中>
・『自民崩壊の300日』(読売新聞社)
・『高慢と偏見とゾンビ』(ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス)
・『ユダヤ警官同盟(上)』(マイケル・シェイボン)
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by worthy42 | 2010-03-22 11:12 | 一冊入魂(読書記録)

今週の読了帳(03・08~03・14)

今週の注目の一冊は『煙の樹』(デニス・ジョンソン)。
泥沼化するベトナム戦争に従事する人々の生き様を綴った巨大長編(約600ページ)。

探していた『高慢と偏見とゾンビ』が見つからなかったので、友人に借りたのだが、
曰く、「笑撃的」で「購入してもらうのが悪いくらい」らしいので、その奇想天外さがとても楽しみ。


<今週の読了本>
・『贄の夜会(上・下)』(香納諒一)
評価:☆☆☆☆☆

「犯罪被害者の会」に参加した女性2人が惨殺される。
20年前の14歳のときに同級生を殺害し、首を学校の門に晒した当時の猟奇殺人犯が
この会の弁護士として活動していることが明るみになり、疑いの目はその弁護士に。
事件を追う心に傷を追った刑事とサイコ犯に、さらに、暴力団と凄腕スナイパーが関わってきて・・・。


サイコミステリとしては真っ当な筋立てながら、猟奇さ・面白さは抜群。
「人間の再生」を一貫したテーマに掲げ、犯罪者、被害者の遺族だけでなく、
刑事までもが不条理の果ての苦しみに否応なく直面し、絶望する。

無限地獄のような心の空虚と痛みをどう乗り越えていけばいいのか、
その解答を希望と悪夢の極端な例を以って提示した傑作。

久々に満足させる王道サイコミステリに出会った。


<ただいま読書中>
・『カタコンベの復讐者』(P.J. ランベール)
・『自民崩壊の300日』(読売新聞社)
・『Top of The World』
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by worthy42 | 2010-03-14 18:26 | 一冊入魂(読書記録)

先週と今週の読了帳(02・22~03・07)

数年ぶりに激昂し、電話の電源をオフにして迎えた休日は探しものに当てる。
ミナミの洋書セールで英英辞書を大量に買い込む予定だったが辞書自体が1冊も見当たらず肩を落とす。
が、ラデュレで購入した贈り物用のマカロンは喜んでくれたようでなによりだった。


他に探していたのは、『高慢と偏見とゾンビ』と『辞書からはじめる英語学習』。
購入するかどうか迷っているのは、トニ・モリスンの『ビラヴド』とウィリアム・トレヴァーの『密会』。


<今週の読了本>
・『狼たちの月』(フリオ・リャマサーレス)
評価:☆☆☆☆

『黄色い雨』以来、スペイン人作家、フリオ・リャマサーレスを読むのは2冊目。
前作品でも強く感じたのだが、この作家の書く文体から伝わってくる静謐さは他に類を見ない。
血生臭い暴力による死や貪るような肉感的な官能美すら、ただただ圧倒的な静謐さを放っている。

スペイン内戦が平凡な一市民を凶暴な狼に変えていく様を冷徹に描いた一冊。


・『やさしい訴え』(小川洋子)
評価:☆☆☆☆

リャマサーレスに相応しい言葉が「静謐さ」だとすれば、小川洋子のそれは「淡さ」というところだろうか。
夫婦生活に限界を感じた女性の家出と不倫、極論すれば、それだけの話なのだが、
喜怒哀楽、全ての想いをただあるべきものとして甘美な薄膜で受け止める筆致が魅惑的。
全てを包み込むやさしさ故に、逃げ場がまったく存在しない残酷さを孕む。
そんな幸福と不幸がないまぜになった世界にどっぷりと浸れること請け合い。

もっと小川洋子を読んでみようという気にさせてくれる良作。


<ただいま読書中>
・『贄の夜会(上下)』(香納諒一)
・『Top of The World』
・『カタコンベの復讐者』(P.J.ランベール)
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by worthy42 | 2010-03-07 21:34 | 一冊入魂(読書記録)

今週の読了帳(02・12~02・21)

突然だが、『煙滅』(ジョルジュ・ペレック)が気になる。

なぜ気になるかといえば、このフランス人の作者はフランス語に必要不可欠な母音Eを一度も使っておらず、
翻訳者はそれに応えて、「い段」(=いきしちにひみりゐ)を一切用いずに全訳したからだ。
もうここまで何度「い段」を使ったことか。

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』(水村美苗)並みに気になる。


<今週の購入本>
・『プロ野球スカウティングレポート』(小関順二)


<今週の読了本>
・『永遠の0』(百田尚樹)
評価:☆☆☆☆☆

太平洋戦争末期に戦死した凄腕のゼロ戦パイロットの祖父。
足跡を追う孫たちは、そんな祖父が仲間内から「臆病者」呼ばわりされていたことを知る。
「生きて帰る」を公言して憚らなかった祖父は、なぜ死んだのか。
かつての戦友に話を聞いて回るうちに辿り着いた衝撃的な結末とは―――。


史実と事実が必ずしも一致しないように、
この本で描かれる戦争に纏わる様々な「事実」を全て信用するわけにはいかないが、
戦争の悲惨さの一端を描き切った傑作であることは間違いない。

真珠湾で、ミッドウェーで、ラバウルで、そして、ガダルカナルで儚く散った多くの生命を思うにつけ、
戦争の究極的な悪は、人一人の命が権力者の面子や体裁を取り繕うためだけの「手段」に成り下がること、
つまり、戦闘そのものとは異なる次元で絶望的なほどに軽んじられることにあるのだなという、
そのあまりにも当たり前すぎる結論に達して、無性に涙が止まらなかった。

日本人なら知っておくべき、肝に銘じておくべきことが満載な一冊。


<ただいま読書中>
・『狼たちの月』(フリオ・リャマサーレス)
・『Top of The World』
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by worthy42 | 2010-02-21 20:30 | 一冊入魂(読書記録)

久方ぶりの読了帳(01・18~02・11)

およそ3週間ぶりの読了帳。

新年から怒涛の忙しさで、あまり読書に時間を割けていないのだが、
移動の時間を中心にページを重ねている次第。

新書や政治・社会関係のノンフィクションに幾つか気になる作品があるほか、
コーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』が傑作との誉れ高いと聞き、
ニューヨークタイムズ紙で作家の投票によりベスト・アメリカン・ノヴェルズ(2006-1981)に選出されたとあって、
とても気になっているところ。まずは、同作家の前作原書『ROAD』を読み終えなければ。
が、現在、『Top of The World』を読み進めているので、ずいぶんと先の話になりそう。

<久方ぶりの読了帳>
・『ハーモニー』(伊藤計劃)
評価:☆☆☆☆

「核」による世界的な大災禍を経て、医療経済で復興・発展した福祉厚生社会に暮らす人類。
互いが互いを思いやって気遣う穏健な現代では、科学技術の発展により病気はほぼ消滅していた。
そんな「強制的な」優しさと「狂信的な」健康第一主義を根幹にした人類社会に未曽有の危機が襲いかかる。
立ち向かうのは、10年以上前に友人とともに自殺を図るも生き残った女性。
調査を進めるうちに、危機を操る背後には、その時に死んだはずの友人の影が・・・。


ちょうど1年ほど前に急逝した若手SF作家の遺作。
作家デビュー作の『虐殺器官』に負けないほどの奥深い面白さ。

何よりもまず、設定の発想がユニーク。
世界中に流出した核兵器があちこちで使用された後に、荒廃した人類がたどり着いたのが、
病気を消滅させ、健康体でいることを強制する医療体制が敷かれた社会であるというのは面白い。

つくづく、この新進気鋭の作家の死が悼まれる。


・『月野さんのギター』(寒竹泉美)
評価:☆☆☆☆

日頃は本だけでなく映画でも自分からは全く触手が伸びない分野の本なのだが、
マイミクさんのデビュー作にして「第7回「講談社Birth」小説部門受賞作とのことで即買い。

遠距離恋愛中の恋人が親友と浮気をしていることをしった主人公。
だが、自分にも気になる女性がいて心底起る気になれない。
だが、その女性には彼氏がいることが分かる。
一度に2人を好きになることはできるのか、という疑問を胸に秘めた主人公は・・・。


京都を舞台にしている本で、京都への移動中に大部分を読んだせいもあるのか、
学生時代や20代中盤の自分を思い出して、自らの未熟さや気まずい過去を思い出して、
あの頃のことを誰かに告白したい、誰かと共有したい、海に向かって叫びたい、
そんな悶々とした想いに囚われ、深い感慨に耽る羽目になった。

特筆すべきは、男性の主人公の感情の機微を非常に正確に捉えていること。
恋人の浮気現場を目撃したら、多分、熟慮の末、同じ行動を取ると思うし、
自分の存在を名乗りたい場面では気後れして名乗れず、
その一方で、とある状況下で強引に意中の女性を口説き落とすという、
この主人公の豪快さや傲慢さと、繊細さや気弱さが混在する性格は、「男」ならではという気がするのだが、
女性からすれば限りなく面倒くさいであろう男のそんな一面をよくぞ理解してくれたものだ、と
世の男を代表して拍手喝采したい心境になった。


・『「噂の真相」 トップ屋稼業 -スキャンダルを追え!-』(西岡研介)
評価:☆☆☆☆☆

神戸新聞社を経て、悪名高い、アノ、「噂の真相」で成らした記者の仕事に纏わる諸事をまとめた一冊。
阪神大震災直後、瓦礫の下に埋もれた人々と職業的矜持の間で絶望的なほど煩悶したエピソードから、
神戸市の件の「少年A」事件、東京高検検事長の愛人スキャンダル、
TBS社員とアイドル達による乱交スキャンダル、森喜朗元首相の買春の事実など、
織り込まれた事件・事故に関する詳細な事実や何者をも恐れない忌憚のない意見は、
若手有数のトップ屋(=週刊誌の巻頭記事を飾るスクープ記事を売り込む記者)らしくとても面白い。

やんちゃで毒の強そうな関西人らしい豪放磊落なキャラクターの割には意外に謙虚だが、
「エライ人にはおもねらず、ワルイ奴は眠らせない--というジャーナリストとしての最低限の矜持をもって」
というシンプルな主義主張、これからもそれを貫いて頑張ってや、と応援したくなる。

私も基本的には所謂権力者やその取り巻きには鼻から疑ってかかるし、
権力者に積極的に阿る人々には距離を置きたいタイプだが、
そうかといって、この本に書かれていることを100%鵜呑みにするわけにはいかない。
それでも、「噂の真相(及び、かの有名な岡留安則編集長」はもちろん(残念ながら既に廃刊)、
他の週刊誌の見方を変えてくれた、マスコミに興味のある人には必読の一冊。


・『増大派に告ぐ』(小田雅久仁)
評価:☆☆☆

「第21回日本ファンタジーノベル大賞受賞作」ということで期待したのだが、私にはあまり肌が合わず。
文章はそつがなくて巧いな、読ませるな、と思ったのだが、「ファンタジー」の要素が・・・。

同じファンタジーノベル大賞受賞作ということであれば、
私なら第3回の受賞作品『バルタザールの遍歴』をおススメする。


<只今読書中>
・『Top of The World』
・『永遠の0』(百田尚樹)
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by worthy42 | 2010-02-11 18:35 | 一冊入魂(読書記録)

新年の読了帳(2010・01・01~01・17)

<新年の読了帳>

・『東スポ黄金伝説。』(赤神信)
評価:☆☆☆

・『グラーグ57(上・下)』(トム・ロブ・スミス)
評価:☆☆☆☆

詳細はまたいつか。

<只今読書中>
・『ハーモニー』(伊藤計劃)
・『月野さんのギター』(寒竹泉美)
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by worthy42 | 2010-01-18 00:34 | 一冊入魂(読書記録)

Book of the Year 2009 フィクション

スウェーデン発の巨編ミステリ『ミレニアム1(上・下)』で始まった今年の読書生活。
多忙を理由に自ら胸に言い聞かせて夏場は読まない時期が続いたけれど、
結果として読んだ本は全部で61冊(フィクション49冊、ノンフィクション12冊)。

通常なら国内/海外フィクション・ノンフィクションに分けてベスト本を選定していくのだが、
今年は去年より20冊ほど読了した本が減ったので、国内と海外のフィクションはまとめてご紹介。
もちろん、ジャンルはすべてごちゃ混ぜのごった煮。

よほど惹かれた作品以外を除けば新刊は購入しないタチので、
毎年、師走に書店の棚を賑わすベスト本特集雑誌よりは時間の流れがちと緩やかなのでご容赦を。

さらに言えば、今月中に読了予定だった本に取り掛かれなかったので、
それらについては、残念ながらまた来年のこの時期にまとめるものとする。


さて、順位については昨年と比べて大いに迷った。
国内と海外を一緒くたにしたので、良作、怪作、傑作揃い(特に海外モノ)のなかでも、
「あれも!これも!」という内なる叫びを収拾して泣く泣く選外にした作品もあったし、
逆に、去年の『百年の孤独』、『ゴールデンスランバー』、『深海のYrr』、『チャイルド44』といった
瞬時に上から順位付けができるような(私にとっての)大傑作がなかったので、
ベスト10の選定も、その順位付けも、眺めるたびに変えたほうが良いのではと思い出す始末。

順不同ということでご覧頂ければ幸いです。

①『新世界より(上・下)』(貴志祐介)
②『フラグメント 超進化生物の島』(ウォーレン・フェイ)
③『ダイナー』(平山夢明)
④『時間封鎖(上・下)』(ロバート・チャールズ=ウィルスン)
⑤『犬の力(上・下)』(ドン・ウィンズロウ)
⑥『ダブル・ジョーカー』(柳広司)
⑦ 馳星周(『煉獄の使徒』、『9.11倶楽部』、『やつらを高くつるせ』)
⑧『告白』(湊かなえ)
⑨『虐殺器官』(伊藤計劃)
⑩ 京極夏彦(『姑獲鳥の夏』、『魍魎の匣』、『狂骨の夢』)

次点:『残影』(マイケル・マーシャル)、『ミノタウロス』(佐藤亜紀)

ちなみに、『ミレニアム』シリーズは、1~3巻まで全部読んでから評価する予定なので、
たぶん、来年のランクインになると思う。

①は、最後のオチが「あっ」と驚かせる出色の出来。前半の冗長さを吹き飛ばす。
人間の底知れぬ野蛮さ、傲慢さ、そして罪深さがとてもよく描かれていて、
思わず自問自答をせずにはいられない。SFながら読者を選ばない傑作。


②も同じくSFながら、こちらはクリーチャーもの。
映画になれば、B級モンスター・パニックに該当するので、私なら劇場に初日に見に行く。
同じ地球上で全く異なる進化の過程を進んだ生物がいたとしたら?という興味をそそられる
テーマ設定の勝利とも言えるのだが、創造性溢れる生物の図解も見て楽しい。


一昨日突然衝動買いした一冊が、グロさ満載の長編ノワール③。
携帯サイトで募集していた仕事に応募してヤクザに拉致された主人公は、
命からがらとあるダイナー(定食屋)のウェイトレスとして働くことに。
しかし、そのダイナーの顧客は殺し屋たちだった…。

本谷有希子の帯の文句がまさに言いえて妙。
「平山さんの人として間違っているところが好きです」
そう、こんなエグイ描写を嬉々として書けるなんて間違っている。
間違いなく、読者を選ぶ。


2000年代最高のSFと言われるのが、④の『時間封鎖』。
地球が突如巨大な特殊幕に覆われて、地球の時間が宇宙の一億分の一になるという設定が絶妙で、
それを機に世界中で続発する人間の醜い争いが非常にリアル。
①と②にも共通するのだが、SF的な設定ながら現在の人類の在り方からすれば、
起こりえると予測される展開が非常に現実的で身につまされる。


傑作映画『トラフィック』を思い起こさせるのが、30年にわたる北中米の麻薬戦争を描いた⑤。
今年の「このミステリーがすごい 2010」海外版1位に輝いた傑作。
作中、非業の死を遂げる登場人物の数のなんと多いことか。
老若男女、麻薬業者、政府関係者、警察関係者、宗教関係者、そんな区別なく須らく屠られる。
次第に悪も善も曖昧なものになり、正義を司る者さえ清濁併せ呑む状況に身を落とさねばならない。
そんななかで拠るべきものは…というありがちなテーマながら非常に読ませる。


昨年ミステリ市場を席巻した『ジョーカーゲーム』の続編短編集が⑥。
前述「このミス~ 2010」で国内部門2位に輝いたスタイリッシュなスパイ短編作。
爽快な読後感ながら、前作よりもダンディズム色が増した感あり。
異端のスパイ組織に属するスパイ達の人間味も垣間見えて、第3弾も読みたくなった。


⑦の日本が誇るノワールの旗手、馳星周は三作とも優れた作品だったので、作者名で。
『煉獄の使徒』はオウム真理教の内部競争と警察・政治家との癒着をモチーフにした渾身の一作、
『9.11倶楽部』は救命士が主人公の(馳にしては)ヒューマンノワール系。
『やつらを高く吊るせ』は政経界の大物のスクープを漁る出歯亀男が主人公のハチャメチャもの。
ノワール好きであれば、どれも三者三様の妙味で堪能できる。


昨年のミステリー界を席巻したのが湊かなえのデビュー作⑧。
勤務先の学校で娘を失った教師の冷酷な復讐劇といった趣で後味は悪いが、
教師をはじめ、登場人物の心理や主張にはそれなり筋道が立っていて説得力がある。
ただ、「教師がこの手段に訴えては…」という思いは消えない。
もちろん、そういう読後感へと誘うよう綿密に計算されたものだとは思うが、
もっとも忌むべき避けるべき復讐の方法ではなかったか。そういう意味でも後味の悪さは天下一品。


⑨は今年若くして逝去した日本SF界の新星、伊藤計劃の世紀末軍事SF。
気に入った理由は、主人公の思索に現実味があって妙に哲学的なところ。
どれだけ科学技術が発展しても人間の内に秘めた想いは科学ほどの進展を遂げない。
そんな当たり前のことを思索的に書き上げたものだから、
読み手もいつもよりいっそう考えさせられる。


食わず嫌いだった京極夏彦が⑩にランクイン。
いやはや、なんというか、ほんとにもう、螺旋階段をぐるぐる回るうちに、
昇っているのか、降りているのか、分からなくなる、そんな騙し絵中の登場人物になったかのよう。
読み出したら癖になると言う謂れが、身に染みて分かった。
とにもかくにも、2009年最大の発見と声を大にして言える作家の一人。
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by Worthy42 | 2009-12-31 13:32 | 一冊入魂(読書記録)

Book of the Year 2009 ノンフィクション

なんて仰々しく紹介するほど読んではいないので、正直どうかと思うが、
それでもフィクションと一緒くたに順位付けするのはさすがに忍びない。

というわけで、一年間に読了したわずか12冊(去年のほぼ半分!)のうち、ベスト5だけご紹介。

①『戦場の掟』(スティーヴ・ファイナル)
②『旅する力』(沢木耕太郎)
③『貧困大国アメリカ』(堤未果)
④上杉隆(『官邸崩壊』、『ジャーナリズム崩壊』)
⑤『ウォールストリートジャーナル―世界をめざした非凡と異端の男たち』(エドワード・E. シャーフ)

①はイラク戦争後、高額な給料と引換えにイラクで働くことを選んだ「傭兵」たちの実態を暴いた一冊。
軍人としてイラク戦争に従事し、生き永らえて母国で全うな生活を歩もうとしたにもかかわらず、
今度は「私兵」として再度イラクに赴くことを決意した男たちの壮絶な生き様には心打たれるが、
末期癌の父親、裁判に巻き込まれた弟を抱えながらもイラクに戻って取材を続けた作者の姿にこそ、
果てない狂気を感じてしまった。
人を殺すということ、人の死を目撃するということ、死の危険に常に晒されるということ、
人非人でない限り、人は「死」の重みに次第に耐えられなくなるようにできている。
だとすれば、人がこうも「死」に魅了されるのは、「死」に自ら近付こうとするのはなぜだろう。
そんなことに無限回廊の如く思いを巡らせた傑作。


②は若者の旅のバイブル『深夜特急』の作者が、
当時、そしてその後の旅を振り返って書き記したエッセイ。
講演会に駆けつけるほどのファンである私にとっては、垂涎の一冊。
旅が歳を経るとともにその有様を変容させていくのを身をもって体験しているので、
いろいろな意味で考えさせられた。
ちなみに私は旅(の類)の目的地に入ると、必ず書店と酒場を訪れるようにしているが、
それ以外の行動に関しては、20代初頭と比べれば、大分変わっているような気がする。
それが幸せなことかどうかは、未だ判別できないのだが。


アメリカの想像を絶する貧困の実態をレポートしたのが③。
アメリカン・ドリームは確かに存在するのだろうが、
彼の国で暮らすことはイカサマがまかり通るギャンブルに全財産を賭けるようなもので、
とてもじゃないが住んでみようとは思わない、そんな気にさせる現状が余すところなく記されている。
1年間の滞在経験だけでは知りえなかった実情を知るにつけ、
田舎で無邪気に暮らしていたあの頃の自分が幸せだったのかどうか、複雑な気持ちになったのだが、
わが国もこの国と同じ行く末を辿ってしまう可能性を考えると、暗澹たる思いに囚われるのだった。


安部政権下の閣僚たちの無能さと、日本のメディアジャーナリズムに蔓延る権威主義を暴露した
上記2冊は甲乙つけ難い良作だったので、4位は作者名で選んだ。
お粗末極まりない愚かな政治家と、権力臭を漂わせる唾棄すべきメディア。
今の日本を牛耳っているといっても過言ではない両者の実態はこの程度なのだと知らしめてくれる。
政権は民主党に移ったが改善の兆しはわずかで、記者クラブは撤廃どころか改善も捗捗しくない。
要は、権力に魅せられた男たちの既得権益の確保と優越意識(すなわち、嫉妬)に帰結するのだが、
その単純さゆえに非常にタチが悪い。たかだが政治家、たかだかメディア、に過ぎないのに。


アメリカの経済新聞、ウォールストリートジャーナルが産声を上げた日から
軌道に乗り出した80年代くらいまでを克明に描いたのが⑤だ。
一弱小業界紙から有力新聞紙にまで上り詰める過程で大きな貢献を果たしたブンヤ達が
意気揚々と描かれていてとても清清しい。
昔気質のこんな新聞屋たちが屋台骨となったのだなと感心させられる一方で、
新聞社に勤務していたので、やはりというか、記者たちの変人振りには親近感を覚える。
酔っ払って毎日昼ごろ出社する先輩や、エレベータ前で殴り合いをする先輩たち、
毎晩のようにスナックに足繁く通って愛人の世話をする上司たち。懐かしさもひとしおの一冊。
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by Worthy42 | 2009-12-29 23:43 | 一冊入魂(読書記録)

今週の読了帳(12・21~12・28)

<今週の読了帳>
・『小太郎の左腕』
評価:☆☆☆

・『ダブル・ジョーカー』
評価:☆☆☆☆

・『ダイナー』
評価:☆☆☆☆☆

<ただいま読書中>
・『犬の力』

思ったより本を読む時間がなくて(=酔っている時間が多くて)、
予定していた量の本を読み進めることができない(毎年のことだが…)。
それでも、たぶん、明後日の大晦日か元日にBook of The Year を発表できる・・・はずです。
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by Worthy42 | 2009-12-29 11:27 | 一冊入魂(読書記録)

今週の読了帳(12・14~12・20)

<今週の読了帳>
・『戦場の掟』
評価:☆☆☆☆

・『告白』
評価:☆☆☆☆

・『夜は短し、歩けよ乙女』
評価:☆☆☆☆

・『野村ノート』
評価:☆☆☆


<ただいま読書中>
・『小太郎の左腕』
・『武装解除 紛争屋が見た世界』
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by worthy42 | 2009-12-21 00:47 | 一冊入魂(読書記録)