カテゴリ:美句妙文礼賛(魅惑の文言集)( 58 )

死中の意、意中の死

「死はそんなに誘惑的なのか?」

「僕はもうずいぶん長いこと死とともに暮らしてきた。いま僕に残っているのはそれだけだ」

―『鍵のかかった部屋』(ポール・オースター)
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by Worthy42 | 2007-09-16 15:59 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

書くということ、その孤独

あらゆる書物は孤独の象徴である。手に取り、置き、開き、閉じることができる物体。だが、それと同時に、そこに収められた言葉たちは、何ヶ月、時には何年にもわたる一人の男の孤独を体現している。だから、ある本を一語読むごとに、人はその孤独を形成する一個の分子と向き合っているといってもよいだろう。一人の男が独りきりで部屋の中に座り、書く。その書物が孤独について語っていようが他人とのふれ合いについて語っていようが、それは必然的に孤独の産物なのだ。

―『孤独の発明』(ポール・オースター)


人は自分の考えを理解するために書く。書くには言葉が必要だ。だが言葉は人を自分に近づけるよりもはるかに、人を自分自身から隔ててしまう。書くこと、言葉を使って考えることによって、人は自己のなかに他者の影を見出してしまう。

―『鍵のかかった部屋』(訳者:柴田元幸によるあとがき)
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by Worthy42 | 2007-09-16 15:52 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

Who are you?

You are what you read.
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by Worthy42 | 2007-09-16 13:14 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

Your play says something

「サッカーのゲームに完璧はないんだ。(中略)サッカーは人生が凝縮されたものだ。その人間がどうやって生きているのかがプレーに表れてしまう。やる気のない選手など万死に値すると、私は思っている」

「自分たちに足りないことを知る。だから次のゲームを目指すんじゃないか。練習して、戦って、どんな結果が出ても次のゲームでは前のゲームより良い戦いを目指す。ゲーム(試合)→プラクティス(練習)→ベターゲーム(前より良い内容の試合)。サッカー選手の人生は、この繰り返しだ」

デットマール・クラマー(日本サッカーの父)
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by Worthy42 | 2007-09-11 23:08 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

NO GUN, NO LIFE.

始まりは大砲のようなものから火縄銃のような長いライフルになり、拳銃はそこから発展していったのだろうと思った。共通の目的は当然、生物を殺すために決まっていた。ナイフや刀なども同じ目的をもつが、根本的に違うのはそれに含まれるリスクだった。(中略)が、拳銃にはそれはなかった。(中略)殺した側の人間には絶対的とはいわないまでも、ナイフや刀などに比べればかなりの安全が保証されていた。そして、その手には人を殺したという感触、肉を切る、骨を砕くような直接的な感触は一切ないだろうと思われた。(中略)拳銃にあるのは弾丸が発射される時の衝撃の感触のみであり、それに相手の肉や骨との接点はなかった。いかに手軽に相手を殺すことができるかどうか、その人間の願望をこの銀色は体現しているように思えた。(中略)これは殺人を身近にし、そして、殺人を行う、その行為者自らが殺人を傍観することを可能にするものであるような気がした。

いつでも拳銃を撃つことができるという状態は、日々に比例するようにその可能性を刺激し、現実の事柄として私に迫るようになった。拳銃を見、触れる度に、私の頭のには自分が拳銃を撃つ場面が具体的に想起され、それは私の想像の枠内という狭い囲いから抜け出るように、実感という肉体的な感触へと結びつきたがった。私はいつか拳銃を撃つ、それは間違いのないことだと、その中で思うようになった。(中略)その確信は遠かった未来を近づけ、まるでそれ自体が人格を有したように、第一の発射を迫るようになった。その要求は次第に、私の気をおかしくさせる程強くなり、私を捉え、放さなかった。(中略)弾丸の発射は私の意思の選択から、いつの間にか、私の予想を超えて決定へと変わり始めたような、そんな気がした。

私はもう一度戻ることを思った。拳銃を発見した時の状態に、私と拳銃がある意味で、よくわからないが、対等だった状態に、戻ることを思った。しかし、それはやはり難しかった。拳銃はもう私の一部であり、大袈裟に言えば、私の理性の中に入り込んでいた。(中略)もはや撃たないことを選択するには、以前の私に戻るということを選択しなければならないように思えた。それは、拳銃を所持していない、私という存在のみの、私自身に戻ることだった。それは難しいことであると同時に、私にとって非常に嫌なことだった。今の私には、拳銃がない毎日を考えることはできなかった。私は拳銃によってできた自分の生活の流れに、限りない喜びを感じたし、その過程を進んでいくことは、同時に私の人生を進むことであるような気がした。          

以上、すべて『銃』(中村文則)より
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by Worthy42 | 2007-09-11 22:27 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

狩猟本能の先にあるもの

アイヌの人々は、ウェンカムイとなったヒグマに対しては容赦なく徹底的に立ち向かったというが、その時彼らは何を思い何を考えて相対したのだろう。(中略)いつ自分が殺られるかという恐れを抱きながらもウェンカムイを追う彼らを支えていたものは何か。単に同族である人間を獣から守るという以上に、何か宗教的な崇高さ、人間が自然の中で生き抜いていくために神々と取り交わした掟を守ろうとする強靭な意志の存在を思わせた。

―『ウェンカムイの爪』より
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by Worthy42 | 2007-08-16 17:45 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

卒論

今日、捕獲檻を前にして感じた恐れは、純粋な恐怖と言うよりはスリルといったほうが正しいのではないか。去年のあの時と違い、今日は恐れを感じていたとしても、囚われの身のヒグマに対して人間の側が圧倒的な優位に立っていた。(中略)追われる者、食われる者としての怯えを伴った恐怖ではなく、追う者、追われる者が負うべき危険に対する、快感を伴ったスリルではなかたったか・・・。

ヒグマを捕獲し、その後に追跡調査をするというこのフィールドワークが、現代人の内奥に密かに眠っている狩猟本能に触れるものを持っていると考えれば、熱に浮かされたような彼らの様子にも得心がいった。(中略)発信機を付けて彷徨うヒグマを追跡し、その姿をカメラのファインダーで捉えてシャッターを押すという行為は、道具が銃からカメラに替わっただけで、ハンティングに他ならない。獲物を追い詰めようとする時にハンターが味わうスリルと同質のものを予感し、興奮を覚えたのだった。(中略)そこにある血に飢えた自分の内面を一瞬かいま見たような気がして、その野蛮さにぞっとする嫌悪を覚えたものの、そこにはなぜか抗い難い魅力もあった。

―『ウェンカムイの爪』より
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by Worthy42 | 2007-08-16 17:38 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

旅は道連れ


 旅先で感傷的になり、変に哲学的になるのは、旅人の通過儀礼かもしれない。特に一人で旅をしていると、自分という存在の先天的な孤独を、改めて噛み知れさせられる。日常生活やその中の人間関係というパディングが取り払われ、剥き出しになった自分に戻るからだ。そんな時、すべてのものが悲観的に見えてくることがよくある。周りにいる人間の目が冷たく映り、旅そのものが無意味な行動に感じられ、今までの人生が失敗や妥協の繰り返しのように思えてくる。ぼくはまさに、そんな状態の中にいた。
 対処方法は分かっていた。淋しさを自分の中に受け入れるのだ。逃げるまでもなく、反応するのでもなく、ただじっと見つめていることだ。そうしていると、そのうち必ず、痛みは和らいでいく。淋しさが、孤独という別の生きものに変わっていくのだ。そしてある日、その孤独を道連れに、旅を続けていこうという意欲が湧いてくる。

『地図のない国から』(ロバート・ハリス)より
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by Worthy42 | 2007-07-27 00:26 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

偶像


地球よ
これらかずかずの古傷
君のその、騎士面の
美をなすよ。

『コクトー詩集』より
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by Worthy42 | 2007-07-24 22:06 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)

静謐な激情


私は変化がほしかったのであり、平穏無事な生活など望んでいない。
刺激と危険と、それに愛するもののために身を捨てる機会を求めていたのだ。
自分の内部には、エネルギーがありあまっていて、我々の静かな生活には、
そのはけ口がなかった。

レフ・トルストイ『家庭の幸福』より
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by Worthy42 | 2007-07-24 22:04 | 美句妙文礼賛(魅惑の文言集)