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マッチポイント

プロテニス選手としては大成しなかった男がイギリスの上流階級を舞台に、野心と欲望の狭間で強かに生きていく様をミステリータッチで描いた傑作。

ふとした縁から広がる上流階級へのステップ。その糸を慎重に手繰り寄せた先に見つけた、理想の女―――義兄の(元)婚約者。

何をしても生気ない表情をしていた主人公の目に滾る、荒々しい情熱の炎。

理性も出世欲もなにもかも投げ捨ててひたすら快楽に身を委ねたい、そんな退廃的な囁きにすんでのところでブレーキをかける様が、まさにテニスボールがネット上をフラフラとどっちのコートに落ちようかと決めあぐねているかのようで、巧い。

ストーリーはベタベタの不倫愛憎劇で、「不倫」、「妊娠」、「離婚を求める女」とワイドショーや週刊誌を騒がす言葉のオンパレードで目新しさは皆無だが、名作たらしめているのは、私的には初めて見る、スカーレット・ヨハンソン。

好戦的な目、挑発的な口、透き通った艶肌、まるで両性具有の魅力。荒々しく服を剥ぎ取られるシーンには男性なら興奮を隠せないはず。

小悪魔という表現を誰かに聞いた記憶があるが、むしろ、高級娼婦のそれに近く、浮かんだ単語は「肉食」。誘われたら拒否できる人間がこの世にいるのか、疑問だ。

ストーリーのキーとなっている、主人公が強く唱える「運命論」も興味深い。
劇中でも、テニスコートでネットにかかったボールが自陣に落ちるよろしく自身の犯罪の証拠を川に投げようとして堤防に引っかかる。通常なら自らが不利を被るところだが、ますます自分の有利な方向に事態が進む。

コートのどちらにボールが落ちるのかを決めるのが「運命」ならそれがどんな意味を持つのか決めるのも「運命」、そんな言外なニュアンスが劇中の至るところに巧く鏤められている。

主人公の人間観やストーリーに深く関わっているのが、主人公が冒頭で読んでいたドストエフスキーの「罪と罰」。私自身もあらすじしか知らず、読破していないが、読んだ上で作品を見ればより感慨深い思いに囚われることは間違いない。

妊娠をアケスケとせがむ妻に、上流階級特有の堅苦しさ、無関心とお気楽さ―――罪と罰の双方を背負って生きていく決断をした男の無気力な表情がやるせない。

ちなみに監督はウッディ・アレン。

マッチポイント 初回限定版 (特別ブックレット付)
ジョナサン・リース・マイヤーズ / / 角川エンタテインメント
ISBN : B000K2UDHI
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評価:AA-

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# by Worthy42 | 2007-03-24 21:38 | 銀幕に溺れる(映画ノート)

ウェブ進化論とYouTube革命

昨年末から何かに憑かれたかのような読書熱は年が明けても冷めないどころか、その熱は高まるばかり。

基本的には、ドア・トゥ・ドアで1時間半、往復で3時間の通勤時間と就寝前のわずかな時間が大切な読書の時間です。

通勤列車内で読むときは決まってビジネス書かノンフィクション。スーツを着ているとミステリなどのフィクションを読む気にはなりません。といっても、行きは爆睡していることが多いのですが。

最近読み終えたのは、今更ながらの『ウェブ進化論』と『YouTube革命』の2冊。

「ウェブ進化論」は遅きに失した感はありましたが、やはりそれなりに読み応えがありました。

グーグル関連本を何冊か読んだり、関連雑誌や新聞紙面でも目を通していたので目新しさはさすがに色褪せていましたが、この本がランキングの上位を賑わせていた頃よりも、Web2.0ビジネスがさらなる発展を遂げている事実が、はからずもこの本の出色たる出来栄えを証明しています。それにしても、ほんの半年足らずで隔世の感とは、ウェブビジネスの進化には驚かされるばかりです。

「YouTube革命」は動画ビデオ版Mixi、動画ビデオ版MySpaceと位置づけられる、アメリカ生まれの動画共有サイトの凄さを語った一冊。

映像より活字を信じる私としては、利用することはあっても(今でも利用しているし)投稿しようという気にはなりませんが、ビデオジャーナリストの筆者はその絶大な影響力と未知なる可能性を信じきっています。

正直、既存メディアの肖像権問題を、圧倒的なユーザーの支持(数)を背景に強引に押し切ってしまおうとする姿勢は危険だし、その身勝手さには辟易しますが、その元となる映像を愛する心は憎めなくもないかな、という気がします。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田 望夫 / / 筑摩書房
ISBN : 4480062858
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評価:A

YouTube革命 テレビ業界を震撼させる「動画共有」ビジネスのゆくえ
神田 敏晶 / / ソフトバンククリエイティブ
ISBN : 4797339039
スコア選択:

評価:A-
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# by Worthy42 | 2007-03-24 21:33 | 一冊入魂(読書記録)

ヒートアイランド

ノワール的なストーリーのそこかしこに織り込まれた男の甘美なセンチメンタリズムが、人間的な温かみを感じさせる稀有な作家、垣根涼介「攻略月間」の第3弾。

ストリートギャングの一団が、プロの泥棒がヤクザ直営のカジノから奪った大金を誤って強奪したことに端を発する決死の挽回策。

この作品の続編となる、『ギャングスターレッスン』を先に呼んでいたことに途中で気付いた。お馴染みの登場人物も魅力的だし、そこそこに疾走感もあっていい。悪くない。更なる続編『サウダージ』も読んでみたくなる。

だが、タイトルほどに”熱く(ヒートアップ)”のめり込めなかった。

第6回大藪晴彦賞、第25回吉川英治文学新人賞をダブル受賞した傑作、『ワイルドソウル』には到底かなわないし、同じく第17回サントリーミステリー大賞・読書賞をダブル受賞した『午前三時のルースター』にも及ばない。

私のこの作家への指標は常にこの2冊(それもデビュー作と2作目)にあるので、どうしても評価は辛くなってしまうか。

どうせなら公平な目で3冊を読み比べてほしい。

ヒートアイランド
垣根 涼介 / / 文藝春秋
ISBN : 4167686015
スコア選択:

評価:B+

ワイルド・ソウル
垣根 涼介 / / 幻冬舎
ISBN : 434400373X
スコア選択:

評価:AA+


午前三時のルースター
垣根 涼介 / / 文藝春秋
ISBN : 416765668X
スコア選択:

評価:A
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# by Worthy42 | 2007-03-24 21:29 | 一冊入魂(読書記録)

プロ野球スカウティングレポート2007

好きな書き手がいるというのは幸せだと思います。

そして、その書き手との距離が近ければ、ますますいい。

今回購入した本の著者のトークショーに友人に誘われて参加したのは3年前だったかな。

著者でスポーツリライターの小関順二氏などが、来たるシーズンの展望や日頃は聞けないような裏ネタを話したり、ドラフトされたばかりの新人選手たちをゲストに招いてプライベートな質問をしたりと、マニアックな野球ファン(注:私は違います、笑)にとっては垂涎な2時間でした。

そのときに引いちゃうくらい驚いたのは、小関氏のあまりのマニアック度、その野球偏愛ぶりです。

日本全国津々浦々、野球場を訪れてはストップウォッチを片手に野球観戦に勤しむ―――それを語る様の嬉しそうなこと。小関氏といえば、今から20年ほど前に『ドラフト会議倶楽部』を設立しては、実際のドラフト前に「模擬ドラフト」なるものを開催した方。(アメリカのメジャースポーツで言う「ファンタジーゲーム(スポーツ) 」のドラフトヴァージョンだと思ってもらえばいい。完全ウェーバー制だとか)

ちなみに去年一年間で観戦された試合数は、298試合。阪神の甲子園でのホームゲームの4倍以上ですよ? そのすべての試合で、打者の一塁到達時間や捕手の二塁への送球時間を計測するという。そのことを嬉々として初対面の観衆の前で語る50代のオヤジって、、、やっぱり素敵じゃないですか(笑)?

バスケ好きの私も今では中途半端に見るくらいなので、小関氏の子供のように純粋無垢でかつ真摯な野球への愛情には、胸を打たれたし、心から尊敬しているのです。

プロ野球自体はほとんど見ることがないのに、そのトークショー以後、代表作『プロ野球問題だらけの12球団』シリーズを毎年購入しているのは、そんな小関氏の野球偏愛毒にやられてしまったからに他ありません。

というわけで、シーズン開幕を控えた今日、いそいそと恒例のシーズンブックを買いに行ったのですが、スポーツ本売り場に置かれていたのは、『プロ野球スカウティングレポート2007』という別のシリーズ本。

・・・即買いでした(笑)。

名前に惑わされずに、ビッグネームの選手にも遠慮することなく、純粋に成績だけで評価するその姿勢が何よりもすばらしい。過去3年分のデータしか掲載されていないこと、(細かいけど)昨シーズンのホーム&アウェイの成績が載っていないこと(交流戦のは掲載されている)は物足りない気もしますが、それは重箱の隅を突くような行為で、よく吟味された細かなデータに著者の数字へのこだわりが、選手へのコメントには著者の厳しくも優しい人柄が如実に表れていて、野球ファンでも読んでいて楽しくなることは請け合いです。

安易なドラマ性を”捏造”するだけで大物選手の提灯記事しか書けないスポーツ紙記者が見習うべきことが凝縮されている、野球偏愛に満ちた1冊です。

プロ野球スカウティング・レポート2007
小関 順二 / / アスペクト
ISBN : 4757213387
スコア選択:

評価:AA
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# by Worthy42 | 2007-03-24 21:11 | 一冊入魂(読書記録)

Back to Back から十余年

はじめてNBAをテレビで見たのは多分、89-90シーズン。
(それ以前に見たかもしれないが、印象的な記憶がない)

我が愛するLAレイカーズがカンファレンス・セミファイナルで
サンズにいいところなくケチョンケチョンにやられたシーズン。

デトロイト・バッドボーイズ・ピストンズが2連覇を達成したシーズン。
(ちなみに翌年には、マイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズが
ファイナルでレイカーズを破り、初のチャンプに輝いた)

当時はメジャーリーグに挑戦する日本人選手もいなければ、海外のサッカーもはごく一部のマニアだけが熱狂するものだったので、NHK-BSでNBAの試合が週に4日、しかも7時からのゴールデンタイムに放映されるNBA放送の全盛期だった。

当時中学生だった私は平日はいてもたってもいられず、
進行中のプレイオフのシリーズ戦績を机の上にマジックで書いては一喜一憂し、
好きな選手の名前を覚えたての英語で書き連ねては「あ~でもない、こ~でもない」と首を捻っていた。

週末になると、一般紙のスポーツ面の片隅に載る結果だけの数行の記事が何よりの楽しみで、試合結果を知る唯一の手段だった。そのせいもあって、インターネットのなかった当時は、週明けの最初の放送日(概して火曜日が多かった)に週末の試合結果を振り返るコーナーが何よりの至福だった。

・・・・それから十余年。
今では昼休みにHPを見ればその日の試合結果が瞬時に分かるし、
通勤中にビデオポッドキャストで前日のNBAの振り返る番組を見るのが日課になっている。

メジャーリーグ中継の増加や他のスポーツの隆盛、CSの発展もあって、BSで放映される回数も激減した。

放送時間も削られたせいで試合すべてを放映せず、試合の一部が省かれるようになった。

幼い頃は興奮するばかりで気付かなかった仕掛け―――録画放送なので放映時間の残り時間を見れば、ある程度の勝敗が分かってしまう―――を知ってしまった。

私のNBA熱は急激に冷め、
週に8時間見ていた時代は遠く彼方に過ぎ去って
ここ数年は漫然と月に4、5時間見る程度になってしまった。

そして、選手たち―――。

初めてブラウン管越しに見て興奮を覚えた選手全員がベンチから消えた。
その約10年後、初めて現地でナマで見た選手の多くもユニフォームを脱いだ。
今日のNBAを席巻するスターのほとんどがいつの間にやら年下になった。

便利になればなるほど、年を取れば取るほど、
感動は薄れ、接触は減ってしまった。

そんな淡い感傷に浸りながら、
それでも、私はポッドキャストで、インターネットで、今日もNBAに触れる。

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# by Worthy42 | 2007-03-24 21:04 | バスキチ(NBA)