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パラダイス・ナウ

2008年最初の一本は、『トランスフォーマー』。

これでもかとCGを駆使した”メカ・ロボ”モノに仕上がっていて、
その徹底さには賞賛の声を送りたい。

陳腐なストーリ性などツッコミどころは満載だが、
それを凌駕するCGの見事な出来。
頭を空っぽにして見たいときには、打ってつけの一本だと思う。

で、次に見たのが、前から見たかったパラダイス・ナウ

言わずと知れた、「イスラエル・パレスチナ問題」のまさに渦中にある、
ヨルダン川西岸の占領地、ナブルスで暮らす親友同士が
イスラエルの首都、テルアビブへ自爆テロに向かうまでの48時間を
静謐に描いた作品。

ある日突然、翌日に自爆テロを決行するよう告げられたとき、
「神のご意志ならば」と返答した男を見てから、
終始、息苦しい、胸が詰まる思いに囚われた。

(以下、ネタばれあり)

6歳の頃からナブルスを出たことがなく、ナブルスでの暮らしを
「牢獄に入っているようなものだ」と言っていた男が車窓からはじめて目にした
テルアビブの活気、美しい海、人生を楽しんでいる人々、そして平穏。

空爆を受けて壊滅的なまでに退廃したナブルスとは天国と地獄ほどの差―――。

男が最終的に腹を決めたのは、
敵国の安穏とした平和な情景をまざまざと見せつけられた、
まさに、この瞬間ではなかったのだろうか。

この映画のラストは、
大勢のイスラエル兵が乗り込んだバスに座った男の目を
アップで数秒間捉えたまま終わる。

その目には”敵”にたじろいだ様子もなければ、
家族や友人を懐かしむ追慕の念も見えず、
ましてや、数秒後に確実に訪れる「死」への怯えなど微塵もない。

ただ、淡々粛々と自らの運命を受け入れた者に特有の、
あの澄んだ淡々しさしか見当たらない。

そのことが、私には、とてつもなく哀しい。

イスラエル・パレスチナ問題を論ずるには私は無知だ。
たが、たとえそうでも、一人ひとりの人間の命が、あまりにも軽すぎる。

ドイツで知り合ったアラブ人の中からも
殉教者になる(あるいは、もうすでになった)者たちがいるのだろうか。

自爆テロの犠牲になったイスラエル人の遺族たちが
自爆テロを推奨することになると、
アカデミー賞授賞式前にノミネート中止の署名運動を起こすなど
大きな物議を醸し出した問題作。

評価:AA
by Worthy42 | 2008-01-14 00:25 | 銀幕に溺れる(映画ノート)
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